フランキンセンス精油は、カンラン科ボスウェリア属の木の幹からしみ出る樹脂を水蒸気蒸留して得られる精油です。日本では「乳香(にゅうこう)」の名でも知られ、数千年にわたって宗教儀式の薫香として焚かれてきた、歴史の長い香りです。
フランキンセンスの基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 和名 | 乳香(にゅうこう) |
| 英名 | Frankincense(Olibanum) |
| 学名 | Boswellia sacra、Boswellia carterii など |
| 科名 | カンラン科 |
| 抽出部位 | 樹脂 |
| 抽出方法 | 水蒸気蒸留法 |
| 主な産地 | ソマリア、オマーン、エチオピア |
| 香りの系統 | 樹脂系 |
| ノート | ベース |
| 主要成分 | α-ピネン、リモネン、α-ツジェン |
香りの特徴
- 樹脂らしい落ち着いた香りの中に、レモンのような軽い柑橘の香りと、ほのかなスパイスの香りが感じられます。
- ベースノートに分類されますが、立ち上がりは意外に軽やかで、時間がたつにつれて甘く深い樹脂の香りが残ります。
- 原料となる樹種によって香りが異なります。B. sacra(オマーン、イエメン)や B. carterii(ソマリア)が代表的で、両者を同じ種とみなす見解もあります。このほか、B. frereana(ソマリア)、B. serrata(インド)、B. papyrifera(エチオピア)などからも精油が採られます。
- 英名の「オリバナム(Olibanum)」は、香料業界で使われる呼び名です。
香りの主成分
- α-ピネン(α-pinene):モノテルペン炭化水素類に分類される成分で、多くのフランキンセンス精油で最も多く含まれます。研究室で蒸留した B. carterii の精油の分析では、約32〜33%を占めていました。松やヒノキなど針葉樹にも多い、すがすがしい木の香りの成分です。
- リモネン(limonene):モノテルペン炭化水素類に分類される成分で、同じ分析では約10%。柑橘類の果皮に多く含まれる成分で、フランキンセンスの軽い柑橘様の香りのもとになっています。
- α-ツジェン(α-thujene):モノテルペン炭化水素類の一種で、同じ分析では約9%。樹種によってはさらに多く含まれます。
ただし、成分の割合は樹種によって大きく異なります。B. papyrifera は酢酸オクチルが、B. frereana はα-ツジェンが主成分になるなど、「フランキンセンス」とひとくくりにできないほど個性があります。
なお、フランキンセンスの樹脂に含まれる「ボスウェリア酸」は揮発しない成分のため、水蒸気蒸留で得られる精油にはほとんど含まれません。
モノテルペン炭化水素類を多く含む精油は、空気に触れて酸化すると皮膚感作を起こしやすくなることが知られています。
主な産地
- ソマリア:世界有数の産地で、北部の乾燥した山地に自生するボスウェリアの木から樹脂が採取されています。
- オマーン:南部のドファール地方は、B. sacra の産地として古代から知られています。オマーン産の樹脂は品質が高いとされ、等級によって色や透明度で区別されます。
- エチオピア:B. papyrifera の主産地で、エリトリアやスーダンにかけても分布しています。
樹脂は、木の幹に浅い傷をつけ、しみ出して固まったものを数週間後に採取します。乳白色の涙のような形をしていることが、「乳香」の名の由来といわれます。
歴史と文化
フランキンセンスは、人類が最も古くから交易してきた香りのひとつです。古代エジプトでは神殿で焚かれ、ハトシェプスト女王の葬祭殿には、香木を求めて「プント国」へ遣わされた船団の様子が描かれています。
『新約聖書』では、イエスの誕生を祝って東方の三博士が黄金・乳香・没薬(ミルラ)を贈ったと記されています。現在もカトリック教会や正教会の儀式で、乳香が焚かれています。
アラビア半島南部で採れた乳香は、ラクダの隊商や船によって地中海世界やインドへ運ばれ、交易路沿いの都市に富をもたらしました。オマーン南部に残る交易の拠点や乳香の木の自生地は、2000年に世界遺産に登録され、2005年からは「乳香の土地」(Land of Frankincense)の名称になっています。この遺産には、乳香の木が今も自生するワディ・ダウカ、内陸の隊商拠点シスル、港湾遺跡のホール・ルーリとアル・バリードが含まれます。
暮らしでの使い方
- 芳香浴:ディフューザーに1〜3滴。樹脂を焚く伝統的な方法とは違い、煙を出さずに香りを楽しめます。
- 沐浴:天然塩や植物油に1〜3滴を混ぜてから浴槽に入れます。
- トリートメント:植物油で1%以下に薄めて使います。顔に使う場合は0.5%以下を目安にします。
- 瞑想や呼吸の時間の香り:古くから祈りの場で焚かれてきた歴史から、静かに過ごす時間の香りとして選ばれることが多い精油です。
相性のよい精油
- ミルラ:古代から一緒に焚かれてきた組み合わせで、深みのある重厚な樹脂の香りになります。
- 真正ラベンダー:フローラルな甘さが加わり、やわらかい印象になります。
- スイートオレンジ:フランキンセンスに含まれる柑橘様の香りが引き立ち、明るいブレンドになります。
- サンダルウッド:木の香りと樹脂の香りが重なり、落ち着いた東洋的な香りになります。
- ローズオットー:華やかな花の香りに奥行きが加わります。
使うときの注意
- 原液を直接肌につけない、飲まない、目に入れないようにします。
- 子どもやペットの手の届かない場所に保管し、火気の近くで扱わないようにします。
- 3歳未満の乳幼児には、芳香浴以外の方法で使わないようにします。
- 酸化したものは皮膚感作を起こしやすくなるため、開封後はしっかりふたを閉め、冷暗所で保管します。使用期限は開封後1年程度が目安です。
- 妊娠中・授乳中の人、持病のある人、薬を服用している人は、使用前に医師に相談してください。
- 市販品の中には、合成のリモネンなどで薄められたものが見つかったとする調査報告もあります。学名と原産国が明記された製品を選ぶと安心です。
よくある質問
Q. フランキンセンスとミルラの違いは?
A. どちらもカンラン科の樹脂から採れる精油ですが、属が異なります。フランキンセンスはボスウェリア属で軽やかな柑橘様の香りをもち、ミルラはコミフォラ属で、苦みのある重い香りが特徴です。
Q. 樹脂(乳香)と精油は何が違いますか?
A. 樹脂は焚いて煙とともに香りを楽しむもの、精油は樹脂から揮発する香り成分だけを取り出したものです。樹脂に含まれるボスウェリア酸などの揮発しない成分は、精油にはほとんど含まれません。
Q. 樹種によって香りは違いますか?
A. 違います。オマーン産の B. sacra は柑橘様の明るさが、インド産の B. serrata はやや甘くスパイシーな香りが特徴とされます。ラベルの学名を見て、好みの樹種を選ぶとよいでしょう。
参考資料
- Wikipedia(英語版)「Land of Frankincense」(https://en.wikipedia.org/wiki/Land_of_Frankincense)
- Ojha, P. K. et al.「Comparison of Volatile Constituents Present in Commercial and Lab-Distilled Frankincense (Boswellia carteri) Essential Oils for Authentication」Plants 11(16), 2134, 2022(https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9415502/)

