この記事は、人権の専門家ではない宮崎の一個人事業主・ゆうとりが、AIと最新の情報を頼りに学びながら書いています。経済でも健康でも幸福でもつながっている「人権」というテーマを、宮崎から一緒に考えていくための連載です。
「言葉の壁」は、静かな人権課題
全国的に外国人住民は年々増加しており、宮崎県内でも技能実習生や留学生などを中心に、地域社会の一員として暮らす外国人が増えています。
ところが、行政手続きやゴミ出しのルール、子育て支援の情報など、日本語でしか案内されていない情報は今も多く残っています。
「言葉が分からないから、必要な支援にたどり着けない」という状況は、目に見えにくいけれど深刻な人権課題です。
情報にアクセスできないことは、その人が本来受けられるはずの権利や支援から、静かに遠ざけられてしまうことを意味するからです。
あなたがもし言葉の通じない海外で暮らすことになったら、役所の手続きや急な病気のとき、どれほど心細いか想像してみてください。周りに頼れる人がいるかどうかで、その心細さは大きく変わるはずです。
ぼく個人としては、東京で、中国人の太極拳の先生に20年間師事した経験があり、お付き合いする中で、やはり思想の違い、考え方、習慣の違いを知らずにいたことで、先生を怒らせてしまったこともあります。
同じ日本人であっても時に誤解を生んでしまいます。外国人とのコミュニケーションではなおさらです。
理解し合うのは、何倍も難しい、ということを身をもって感じました。
なぜこれが「経済」と「教育」の課題なのか
この課題は、経済の軸にも直結します。外国人住民が地域に安心して定着できなければ、担い手不足に悩む地域産業にとっても大きな機会損失になります。
また、教育の軸で見ても、行政情報や生活情報にアクセスできないことは、子どもの就学案内や日本語学習の機会そのものを狭めてしまう要因にもなります。
言い換えれば、多言語対応の充実は「外国人へのサービス」という一方向の話ではなく、地域全体の経済と教育の基盤を底上げする投資でもあるということです。
人権配慮を「コスト」ではなく「地域の持続可能性への投資」として捉え直すことができれば、行政だけでなく個人事業主にとっても、取り組む意味合いは大きく変わってくるはずです。
国内で広がる、AI多言語対応の事例
この課題に対して、AIチャットボットや音声翻訳を使った多言語対応が全国の自治体で広がっています。
東京都港区では、約2万人の外国人住民に向けて、AIを活用した多言語チャットサービスを運用しています。防災、ゴミ出し、医療、子育て、税金手続きなど8つのカテゴリーに対応し、英語と「やさしい日本語」で24時間365日、自動応答を提供しています。
横浜市では2019年、横浜市国際交流協会が「横浜市多文化共生総合相談センター」を開設し、12ヶ国語対応の多言語映像・電話通訳サービスを導入しました。当時横浜市には9万人を超える外国人が生活しており、人口のおよそ9人に1人を占める規模だったことが、この体制整備の背景にあります。
さらに2025年には、大阪市がAI通訳機「ポケトーク」を200台という全国最大級の規模で導入しました。この取り組みは「誰一人取り残されない」デジタル化の実現を掲げており、まさに人権的な視点とテクノロジー活用が結びついた事例だと言えます。
総務省が2025年6月に公表した調査によれば、都道府県における生成AIの導入率は87.2%に達しており、行政現場でのAI活用は今や特別なものではなく、標準的な取り組みになりつつあります。多言語対応のAIチャットボットも、こうした活用の広がりの延長線上にある取り組みの一つだと言えるでしょう。
規模の大きな自治体だけの話ではありません。甲府市のように、外国人相談窓口に多言語音声翻訳サービスを導入している中規模の自治体の事例も、総務省がまとめた自治体の多言語対応の取り組み事例集の中で紹介されています。
仙台観光国際協会が運営する多文化共生センターのように、行政に加えて公益財団法人やNPOが窓口の一翼を担うケースも見られ、「やさしい日本語」の活用や、幅広いライフステージに対応した相談体制づくりが、全国各地で試行錯誤されています。宮崎のような地方の中規模自治体にとっても、決して縁遠い取り組みではないはずです。
宮崎で増える外国人、その裏にある複雑な感情
宮崎県内で働く外国人労働者は、2024年10月時点で8,515人に達し、前年から1,419人増え、過去最多を更新しました。外国人労働者を受け入れている事業所も、県内で1,506カ所にのぼります。
その一方で、SNS上では、外国人の増加に対する不安や不満の声も少なからず見受けられます。
東京大学社会科学研究所が実施した全国調査によれば、外国人のさらなる受け入れに反対する人の割合は、直近2年で35.6%から56.3%へと全国的に大きく増加しているといいます。
この変化の背景には、社会全体に広がる閉塞感や将来への不安があるとも指摘されています。
こうした感情を、頭ごなしに否定することはできないと、ぼくは感じています。
ただ、その不安の多くは「よく分からないもの」への漠然とした不安であることも多く、実際に顔を合わせ、言葉を交わす機会が増えることで、和らいでいく部分も少なくないはずです。
AIチャットボットは、行政サービスの利用の仕方を外国人に案内する、という点では確かに効果があります。
ただ、それだけで解決できる問題ではありません。
言葉の壁を越えて情報が届くことと、日本人住民と外国人住民が互いを知り、理解し合うことは、別の課題です。
相互理解を深めていくためには、テクノロジーによる情報提供に加えて、顔の見える関係づくりの場も、同時に必要なのだと思います。
宮崎で考えられること
宮崎県内の自治体でも、同様の仕組みを取り入れる余地は十分にあると感じています。特に近年は、生成AIを組み合わせることで、あらかじめ想定していなかった質問にも柔軟に答えられる次世代型のチャットボットも登場しています。
Claude のような対話型AIを使えば、非エンジニアの立場からでも、多言語対応の相談窓口や情報発信の仕組みを、思っているより小さなコストで形にできる時代になってきています。
大都市のような専門部署や大きな予算がなくても、地方だからこそ小回りの利くスピード感で、小さく試しながら仕組みを整えていくことができるのではないでしょうか。
たとえば、行政の正式な仕組みを待つ前に、地域の事業者やNPOが小さな多言語案内の仕組みを試験的に作ってみる、という動き方も考えられます。
いきがいカフェの視点:テクノロジーは「尊厳を支える道具」
私自身、プログラミング未経験からClaude Codeを使ってアプリ開発を始めました。その経験から強く感じるのは、AIは専門家だけのものではなく、非専門家が「誰かの困りごとを小さく解決する」ための道具になり得る、ということです。
外国人住民が「ここで自分らしく生きていける」と感じられるかどうかは、決して大げさな制度改革だけで決まるものではなく、こうした小さな情報アクセスの改善の積み重ねでも変わっていくはずです。
テクノロジーは、それ自体が目的ではなく、一人ひとりの尊厳を支えるための道具である、という視点を忘れずにいたいと思います。単なる便利さだけ、限られた人にとっての利益だけを追い求めてテクノロジーを導入するのではなく、「誰の困りごとを解決するためのものか」を常に問い直す姿勢が、結局は一番遠回りに見えて確実な進め方なのだと感じています。
IKIGAIボードでも、こうした事例を集めていきたい
このシリーズでは、今後もテクノロジーが人権課題の解決にどう役立つかを取り上げていく予定です。もし身近に同じような課題や取り組みの実例をご存じであれば、IKIGAIボードのコミュニティでぜひ教えてください。
この記事を読んで、何か感じたことはありましたか?
このシリーズは、宮崎に暮らす一個人事業主が、人権の専門家ではない立場から、皆さんと一緒に学び、考えていくための連載です。
私たちいきがいカフェ協会は、「尊厳教育」「美徳の実践」「生きがいをもつこと」という3つを、人権が尊重される社会をつくるための解決策の核だと考えています。
知識として知るだけでなく、日々の小さな気づきや実践を、同じ思いを持つ人たちと分かち合える場を、宮崎から育てていきたいと思っています。
IKIGAIボードでは、あなた自身の「生きがい」の傾向を知る診断や、同じテーマに関心を持つ人たちとのつながりを用意しています。よろしければ、覗いてみてください。
